静岡地方裁判所 平成2年(ワ)417号 判決 1991年7月16日
原告 斎藤材
右訴訟代理人弁護士 杉田雅彦
被告 有限会社 日硝運輸
右代表者代表取締役 片岡利夫
<ほか一名>
右両名訴訟代理人弁護士 安井桂之介
同 濵涯廣子
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して二三九五万六二八〇円及びこれに対する昭和六〇年九月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自原告に対し、五八三八万五三八三円及びこれに対する昭和六〇年九月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故の発生
(一) 日時 昭和六〇年九月一六日午後八時三六分ころ
(二) 場所 静岡県駿東郡小山町中島一四番地の一先路上
(三) 加害車両 普通貨物自動車(登録番号 相模一一い二三六四)
(四) 右運転者 被告清水勝則
(五) 右車両保有者 被告有限会社日硝運輸
2 事故の態様
(一) 被告清水勝則(以下「被告清水」という。)は、昭和六〇年九月一六日午後八時三六分頃、前記自動車を運転し、静岡県駿東郡小山町中島一四番地の一先道路を時速約六〇キロメートルで、東京方面から沼津方面に向かって進行するに際し、自車前部を右側に横滑り滑走させ、自車を道路片側をふさぐ状態に滑走させて、対向直進してきた訴外鈴木修運転の大型貨物自動車の右前部に自車右前部を衝突させ、自車左後部車体を道路左端に立っていた訴外海賀保之警察官に衝突させ、更に、同所付近に立っていた原告を、橋下に転落させたものである。
(二) なお、原告は、当時静岡県警察御殿場警察署小山幹部派出所長であり、この時は右海賀保之警察官と共に、別件の交通事故の実況見分中であった。
3 責任原因
(一) 本件事故は、被告清水の一方的過失に基づくものである。すなわち、本件事故現場は、道路片側幅員三・三メートルの湿潤した道路であり、当時対向車両は連続走行しており、被告清水は、道路左端に立っている二人の白のヘルメットと白の服装の人を認めたのであるから、右同人らの動静を注視するのは勿論、速度を調節し、的確なハンドルブレーキ操作を行い、スリップ滑走等の事故発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、対向車と歩行者に気を奪われ、安易に急制動をかけた過失により、前記のとおり本件事故を発生させたものである。
(二) 被告有限会社日硝運輸(以下「被告会社」という。)は、本件加害車両の保有者であり、加害車両を自己のために運行の用に供していたものである。
4 傷害
(一) 原告は、本件事故により、左大腿骨幹部骨折、右股関節脱臼骨折、左腓骨神経麻痺、肝脾臓破裂などの傷害を負い、右股運動制限、右足背屈力低下、左大腿短縮、右股異所性骨化、左大腿骨骨癒合(約一センチメートルの短縮)、右足知覚鈍麻などの症状が発症した。
(二) 右症状は、本件事故によるものであり、右の症状の機能回復は、昭和六二年七月二九日の時点で不変の見込みであった。
(三) 原告は、前記の傷害を負い、昭和六二年五月二六日症状固定するまで、入院二三二日、通院三八八日(実通院九三日)の治療を要した。
(四) 原告は、後遺障害第八級一一号(脾臓を失ったもの)及び第一三級九号(下肢を一センチメートル以上短縮したもの)の等級を認定され、両者の併合により第七級の後遺障害となった。
(五) 原告は、右傷害のため、現在も、日常生活において、常時受傷部位の疼痛、両足の下肢(筋)の痺れ感、右足股関節に傷害の機能障害、体力の減退、非常に疲れやすいなどの症状で大変苦しんでいる。
なお、原告は、本件事故による受傷及びその後遺症のため、御殿場警察署小山幹部派出所長の任に耐えられず、静岡県警察本部の留置係となり、現在もその係に留まっているものである。
5 損害
(一) 治療費 一〇六七万七二四九円
(二) 入院雑費 二七万八四〇〇円
(入院二三二日×一二〇〇円=二七万八四〇〇円)
(三) 休業損害 八九万二七九九円
(四) 傷害慰謝料 三〇〇万円
(五) 逸失利益 四九九〇万五七〇三円
事故前年度(昭和五九年度)収入四七三万八七七一円
労働能力喪失率五六パーセント
稼働可能期間三二年 三二年間のホフマン係数一八・八〇六
(計算式)4,738,771×0.56×18.806=49,905,703
(六) 後遺障害慰謝料 九二〇万円(後遺障害第七級)
(七) 弁護士費用 五〇〇万円
以上(一)ないし(七)の合計 七八九五万四一五一円
(八) 損害の填補額 二〇五六万八七六八円
(九) 差引請求額五八三八万五三八三円
6 よって、原告は、被告らに対し、五八三八万五三八三円及びこれに対する昭和六〇年九月一六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 請求原因2(一)のうち、被告清水が昭和六〇年九月一六日午後八時三六分頃自動車を運転し、静岡県駿東郡小山町中島一四番地の一先道路を時速約六〇キロメートルで東京方面から沼津方面に向かって進行していたこと、被告清水が自車を滑走させ対向直進してきた訴外鈴木修運転の大型車両の右前部に自車右前部を衝突させ、自車左前部を訴外海賀保之警察官に衝突させたことは認め、その余は争う。
同(二)は認める。
3 請求原因3(一)のうち、本件事故現場が道路片幅三・三メートルの道路であったこと、被告清水が二人の人を路上に認めたことは認め、その余は争う。
同(二)は認める。
4 請求原因4の事実は不知。
5 請求原因5のうち、同(八)の損害の填補額は認め、その余は不知。
6 請求原因6は争う。
三 抗弁(過失相殺)
1 本件事故は、警察官である原告が別件の交通事故の実況見分をしている最中に発生したものであるが、本件事故現場は、片側三・三メートルの狭い道路であるうえ、滅多に歩行者のいない道路であり、また、本件事故当時は、夜間、降雨中で見通しは悪く、交通量はきわめて多かったのであるから、かような条件のもとで実況見分をすることはきわめて危険な行為であって、実況見分を主宰する者としては、実況見分中であることないしは交道事故処理中であることを走行する車両運転手に察知せしめる必要があったものである。
しかるに、原告は、実況見分をしている地点の手前にその旨を知らせる何らかの表示、もしくは赤色灯を振る等の措置を講ずることなく漫然と実況見分を続行していた。
2 仮に、原告が実況見分当時、道路左側の路側帯内にいたとしても、本件事故現場の道路は片側三・三メートルと狭く、大型トラックはその車幅が二・五メートル近いものであることからセンターライン付近での対向車両との接触を避けるために通常車両は道路左側いっぱいを通っていること、右路側帯は幅〇・五メートルと狭く人の通行すら自由にできない幅のものであって歩行者用のものと認められないことを考えれば、当然車両の通行には注意しなければならなかったというべきであるが、原告は、車両の通行に注意を払わず、漫然と実況見分をしていた。
3 また、原告は、自己の方に向かって来る加害車両を見て狼狽の余り自ら欄干を飛び越えて約二一メートル下の橋下に落下したものであるところ、加害車両は欄干に当たらず、原告の脇をすり抜けて進行したのであって、緊急事態に直面した原告としては加害車両と衝突するだろうと判断したのも止むを得ないことであったとしても、欄干を飛び越えること以外に容易に本件事故を回避する方法はあったのであるから、原告の本件事故回避措置は不適切であった。
4 よって、原告の請求しうべき損害額を算定するに当たっては原告の右過失を斟酌すべきである。
四 抗弁に対する認否
争う。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因について
1 請求原因1(交通事故の発生)の事実は、当事者間に争いがない。
2 請求原因2(事故の態様)について
(一) 請求原因2(一)のうち、被告清水が昭和六〇年九月一六日午後八時三六分頃自動車を運転し、静岡県駿東郡小山町中島一四番地の一先道路を時速約六〇キロメートルで東京方面から沼津方面に向かって進行していたこと、被告清水が対向直進してきた鈴木修運転の大型車両の右前部に自車右前部を衝突させ、自車左前部を海賀保之警察官に衝突させたことは、当事者間に争いがない。
そして、《証拠省略》によれば、被告清水が自車前部を右側に横滑り滑走させ、自車を道路片側をふさぐ状態に滑走させたことが認められ、また、《証拠省略》によれば、本件事故の際、原告が橋下に転落したことが認められる。
(二) 同(二)の事実は、当事者間に争いがない。
3 請求原因3(責任原因)について
(一) 請求原因3(一)のうち、本件事故現場が道路片幅三・三メートルの道路であったこと、被告清水が二人の人を路上に認めたことは、当事者間に争いはない。
そして、《証拠省略》によれば、本件事故当時、現場の路面は降雨のため湿潤していたことが認められ、《証拠省略》によれば、本件事故当時、現場付近を対向車両が連続走行していたことが認められ、《証拠省略》によれば、被告清水が、対向車両と歩行者に気を奪われ、安易に急制動をかけたことが認められる。
また、被告清水が、急制動をかけるに先立って、道路左端に立っていた二人の人が白ヘルメットを着用し、白い服装であったことを確認したと認めるに足りる証拠はないものの、《証拠省略》によれば、被告清水が、急制動をかけるに先立って、少なくとも右二人の人が白っぽい服装をして路上にいたことを視認していることが認められる。
以上の事実関係のもとでは、被告清水は、路上にいることを視認した原告及び海賀保之の動静を注視するのは勿論、速度を調節し、的確なハンドルブレーキ操作を行い、スリップ滑走等の事故発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、対向車と歩行者に気を奪われ、安易に急制動をかけたことにより本件事故を惹起せしめたというべきであるから、被告清水には過失があると認められる。
(二) 同(二)の事実は、当事者間に争いがない。
(三) よって、被告清水は民法七〇九条により、被告会社は自動車損害賠償保障法三条により、それぞれ本件事故によって原告が被った損害を賠償する責任がある。
4 請求原因4(傷害)について
(一) 《証拠省略》によれば、原告は、本件事故により、左大腿骨幹部骨折、右股関節脱臼骨折、左腓骨神経麻痺、肝脾臓破裂などの傷害を受け、右股運動制限、右足背屈力低下、左大腿短縮、右股異所性骨化、左大腿骨骨癒合(約一センチメートルの短縮)、右足知覚鈍麻などの症状が発症したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
(二) 《証拠省略》を総合すると、右症状は、本件事故により発症したものであり、右症状の機能回復は、昭和六二年七月二九日の時点では不変の見込みであったことが認められる。
(三) 《証拠省略》を総合すると、原告の負った前記傷害及びこれによる後遺障害は、昭和六二年五月二六日に症状固定となったこと、原告は、右症状固定まで入院二三二日、通院三八八日(実通院九三日)の治療を要したことが認められる。
(四) 《証拠省略》を総合すると、原告は、後遺障害第八級一一号(脾臓を失ったもの)と第一三級九号(下肢を一センチメートル以上短縮したもの)の等級を認定され、両者の併合によって第七級の後遺障害の認定を受けたことが認められる。
(五) 《証拠省略》によれば、原告は、前記後遺障害のため、現在も、日常生活において、常時受傷部位が痛む、両足の下肢(筋)に痺れを感じる、右足股関節に傷害が残っているためあぐらがかけない、トイレに苦慮する、同世代の者の体力には遠く及ばない、非常に疲れやすいなどの症状で苦しんでおり、外勤のある御殿場警察署小山幹部派出所長としての任に耐えられないため、静岡県警察本部の留置係に配置換えとなり、昭和六一年一月警部補に昇任した後もその係に留まって主にデスクワークに従事していることが認められる。
5 請求原因5(損害)について
(一) 治療費
《証拠省略》を総合すれば、原告は、その治療として、一〇六七万七二四九円を支出したものと推認することができる。
(二) 入院雑費
《証拠省略》によれば、原告が二三二日間入院したことが認められるところ、原告は、経験則上、右入院期間中一日当たり一〇〇〇円を下らない雑費を支出したものと推認するのが相当であるから、原告は、それにより合計二三万二〇〇〇円の損害を被ったものと認められる。
(三) 休業損害
《証拠省略》を総合すると、原告は本件事故の結果昭和六二年五月末頃まで就労することができなかったため、通常勤務に相当する給料の支給を受けたものの、事故前に支給を受けていた残業手当に相当する残業手当の支給を受けられなかったため、八九万二七九九円の損害を被ったことが認められる。
(四) 傷害慰謝料
前認定の原告の受傷部位程度、治療経過等その他諸般の事情に鑑みれば、原告の傷害についての慰謝料額は、三〇〇万円と認定するのが相当である。
(五) 逸失利益
原告が、本件事故により、脾臓喪失及び下肢一センチメートル短縮の後遺症を負っていることは、前認定のとおりであり、また、《証拠省略》によれば、脾臓喪失の後遺障害等級は第八級、下肢一センチメートル以上短縮の後遺障害等級は第一三級、両者を併合して後遺障害等級は第七級であることが認められるところ、この場合の労働能力喪失率は、労働基準局長通牒昭三二・七・二基発第五五一号によれば、五六パーセントであることが認められる。
ところで、《証拠省略》によれば、原告(昭和二七年一月二日生)が静岡県から支給を受ける給与は、昭和六〇年が四七三万八七七一円であったが、昭和六一年が四八六万六〇二八円、昭和六二年が五〇三万五一三二円、昭和六三年が六〇〇万五五〇八円、平成元年が六四二万二三九七円、平成二年が六九五万三七四七円となっていて年々増額になっていることが認められるが、《証拠省略》によれば、原告の給与が年々増額になっているのは、原告が本件事故後、後遺障害に耐えながら警部補昇任試験合格後もなお一層の勉強と努力を重ねて首尾よく現実に警部補に昇任し、警部補としての職務を全うしていることと諸物価高騰によるベースアップなどによるものであるとみられるが、現在の身体状況では更に警部に昇任するということは甚だ困難であるし、原告がかねてから希望している刑事交通畑の仕事に戻れず、主にデスクワーク的な仕事に従事することを余儀なくされることが推認され、右推認に反する証拠はない。また、《証拠省略》によれば、脾臓を喪失してもその機能が他の臓器によって代替され、人体に著しい影響を生じないという一面があるが、一過性の血小板の増加、赤血球内の空胞などの血液の変化があり、全身の倦怠及び疲労し易い状態を生ずるものと認められるから、原告については、下股の障害と相俟って、現在においてはともかく、前判示のように原告の今後の警察官としての勤務、昇進昇給等に少なからぬ影響が生じることが容易に推認されるところである。
右のような事情を前提とすると、原告の労働能力喪失率を原告主張のように五六パーセントとするのは相当でなく、原告の症状が固定した満三五歳から六七歳までの三二年間を通じて二五パーセントとするのを相当と認める。
したがって、原告の事故前年度(昭和五九年)の収入の概算四七四万円を基礎とし、ライプニッツ方式により年五パーセントの中間利息を控除して、原告の逸失利益を算定すると、次の算式のとおり、一八七二万三〇〇〇円となる。
474万円×0.25×15.8=1872万3000円
(六) 後遺障害慰謝料
原告が本件事故により重篤な後遺障害を残したことは前記のとおりであって、いまだ三〇歳代の原告が今後数十年間にわたり右後遺障害を負っていかねばならないことの精神的苦痛、その間の日常生活への影響等を考慮すると、原告の後遺障害についての慰謝料額は、金九〇〇万円をもって相当と認める。
(七) 弁護士費用
弁論の全趣旨によれば、原告は、被告らが損害賠償金を任意に履行しなかったので、やむなく弁護士たる本件原告代理人に本訴の提起と追行を委任し、相当額の手数料及び報酬の支払いを約したことが認められるが、本件事案の内容、審理の経過、認容額その他諸般の事情を斟酌すると、原告が被告らに対し請求しうる弁護士費用の額は、二〇〇万円をもって相当と認める。
(八) 損害の填補
原告が、本件事故による損害の填補のため、二〇五六万八七六八円の支払を受けたことは、当事者間に争いはない。
二 抗弁(過失相殺)について
1 本件事故現場は、片側三・三メートルの狭い道路であるうえ、本件事故当時は、夜間、降雨中で、しかも交通量が多かったことは前認定のとおりであるから、かかる状況のもとで、実況見分を主宰する者としては、事故防止のため、実況見分中ないし交通事故処理中であることを走行車両の運転手に知らしめるための措置をとるべきであることはいうまでもないところ、これを本件においてみるに、《証拠省略》によれば、原告とともに実況見分に当たっていた海賀が赤色灯を携帯し、これを脇に挟んで照らしながら路側帯上で実況見分していたし、通行車両の運転手は、前方を注視していれば、海賀保之が立っていた地点より約六六メートル手前で、右赤色灯を明瞭に確認できる状況にあったうえ、被告清水が自車を滑走させる以前の時点において右赤色灯を明瞭に確認していたことが認められるので、原告は、海賀保之とともに、実況見分中ないし交通事故処理中であることを通行車両の運転手に察知せしめるための一応の措置をとっていたというべく、他に被告ら主張の事実を認めるに足りる証拠はない。
2 また、本件事故現場は、片側三・三メートルの狭い道路であることは、前判示のとおりであるから、かかる狭い道路の左側の路側帯内において実況見分をするに際しては進行車両の通行に十分注意しなければならないことは、被告ら主張のとおりであるが、《証拠省略》によれば、原告は、本件事故当時、白色ヘルメット及び白色雨衣上着(いずれにも、夜光テープが付けられていた。)を着用していたことが、《証拠省略》によれば、本件事故当時、原告は、東京方面を向いて、すなわち被告清水運転の車両が走行して来るのと対面する向きに立っていたことが認められ、これらのことからすれば、原告は、車両の通行にも注意しつつ実況見分に当たっていたことが窺われるところであるから、「原告は、漫然と実況見分をしていた。」旨の被告ら主張は採用し難く、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
3 なお、本件において、原告が自ら欄干を飛び越えて被告清水運転の車両との衝突事故を回避するような措置をとらなかったとしても、右車両と衝突しなかった可能性は否定できないが、前認定のとおり片幅三・三メートルしかない狭い道路上で、走行するトラックが間近に迫っている状況に直面した原告が飛び降りなければ衝突すると直感し、右衝突を避けるため欄干を飛び越えようとしたことも無理からぬ心情として十分理解し得るところであり、路側帯にそのまま佇立したままトラックの通過を待つということを強いることは相当ではないから、事後的、客観的に衝突しない可能性があったとの判断を前提としたうえ、原告が自ら欄干を飛び越えて約二一メートル下の橋下に落下した行為をもって、原告に過失相殺の対象となり得る過失があったと評価することは相当でなく、損害の公平な分担という不法行為制度の趣旨にももとるものであるといわざるを得ない。
4 よって、被告らの過失相殺の抗弁は、採用することができない。
三 結論
以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告らに対し、前記一の(一)ないし(七)の損害合計四一五五万五〇四八円から、同(八)の二〇五六万八七六八円を控除した二三九五万六二八〇円及び右金員に対する本件不法行為の日である昭和六〇年九月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容するが、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 塩崎勤)